金型メーカーや部品加工メーカーにおけるスケジューラーの使い方
私が金型メーカーや単品部品加工メーカー向けのセミナーで、日程管理のことをお話しすると、よく受ける質問があります。
当事務所では、金型製造や単品部品加工においては、大日程計画から中日程計画、そこから小日程計画と、段階的に詳細にしていく計画を立てることをオススメしております。
そこでよく受けるのが、これら3つをきちんと管理していこうとすると結構大変で、物理的に可能なのでしょうか、という質問です。
物理的にということであれば、私自身が現役で金型を作っていたときに実際にやっていたので可能だとは思うのですが、ITツールを使う手段もオススメしています。
具体的には、スケジューラーソフトを使うことなのですが、ざっくりと一言で言い表すと、「中日程計画を作ると自動で小日程計画が作られる」と表現しており、セミナーやコンサル現場などで、このように説明すると、ほとんどの方に理解していただけます。
今回は、株式会社シー・アイ・エム総合研究所さんにご協力いただき、市販ソフトとして販売されているDr.工程PROのサンプル画面もご提供いただきましたので、具体的な例で、金型メーカーや部品加工メーカーでのスケジューラーの使い方を見ていきたいと思います。
金型メーカーや部品加工メーカーのあるべき日程計画
まず、以前別のコラムで解説していますが、簡単に金型メーカーや単品部品加工メーカーのあるべき日程計画とはどのようなものか、そこから見ていきたいと思います。
大日程計画
まずこれは下図の例のように、金型ごとの日程管理になります。
上図は、4つの金型を製番ごとにガントチャート形式で管理している事例です。
多くのメーカーでとられているのは上図のように、設計や機械加工など、工程ごとに分けて納期設定する方式です。
中日程計画
次は中日程計画ですが、こちらは下図にあるように、部品ごとの工程計画と、それら工程ごとの納期計画です。
単品部品加工メーカーにおいては、大日程計画は使わず、こちらの中日程計画と次の小日程計画を使って日程管理が行われていることが多いです。
小日程計画
最後は小日程計画です。こちらは下図のように、個別の機械や人に対するスケジュールです。
例えば、上の図は、マシニングAということで、この加工現場に複数あるマシニングセンターのうち、Aという識別で管理されている機械の2週間分のスケジュールを、1時間ごとの区切りで仕事を割り振った表になります。
ここまで見てきた事例のように、大中小と3段階に切り分け、金型や単品部品を作る工程と納期を管理することをオススメしています。
3段階の日程計画の課題とスケジューラーについて
さて、これら3段階の日程計画について、現場の負荷状況を見ながら計画を更新していくわけですが、3つの計画表全てを細かく状況に合わせて、計画表の中の部品の順番を入れ替えたり、工程納期を調整していくのは大変です。
そこで、実際の負荷を加味して、細かく調整していくのはどれか一つの日程計画に絞るわけです。
例えば、中日程計画では、金型本体の納期から逆算して、「これまでには終わっていて欲しい」という、それぞれの工程の最終納期だけを示しておき、実際の日々の着手計画は小日程計画の方で管理する方法です(この場合は、中日程計画で設定する着手から完了までの日程は、できる限り許容される範囲で余裕を持たせた日数で計画する等)。
私が見てきた中では、この中日程計画による各部品の工程ごとの納期までしか管理されず、日々の着手計画は各作業者任せになっている現場が多かったのですが、やはり多能工化を前提として、「人」に着眼した小日程計画、つまり各作業者がその日何と何をやるかを明確に管理すること(日々の着手計画)が、儲けるために重要だと私は思っています。
さて話を元に戻しますが、この3つの日程計画のうち、特に中日程計画と小日程計画、それぞれ両方をメンテしていくことが大変で難しいという声をよく聞きます。
それこそ専任の担当者がいて、EXCELで作った表を、1日かかりっきりで触っているという人がいれば・・・という声も聞きますが、仮にそういった人がいても、ある程度加工がわかったり、工数の見積もりができるという人でないと、日々計画表を管理するのは難しく、またそういう設計や加工がわかる人ほど、1日中、生産管理に携わっていられないという人が多いこともあります。
そこで、そういった実状を聞くと、「では費用はかかりますが、スケジューラーを導入してはどうですか」と、お話しするわけです。
じゃあ、スケジューラーって何ですか?と問われますので、冒頭にも書きましたが、ざっくりと一言で言い表すと、人が中日程計画を入力すると、その後、自動で小日程計画が作られるソフトだとお伝えしています。
冒頭に説明した大日程計画・中日程計画・小日程計画の使い分けについてお話ししたのち、スケジューラーの用途をお話しすると、大抵この説明でご理解いただけます。
では具体的に、「人が中日程計画を作ると、後は自動で小日程計画が作られる」という機能について、株式会社シー・アイ・エム総合研究所さんのご協力のもと、ご提供いただいた生産管理システムのDr.工程PROの操作サンプル画像を使って、どのようなものかを見ていきたいと思います。
自動差し立て機能の事例
まず先ほどの中日程計画にあたるもの、「部品ごとの工程計画とその納期管理」は、Dr.工程PROだと「工程入力」の操作として、次のような画面で管理されるようです。
工程入力(中日程計画にあたるフェーズ)
「パート図」の画面
下図は、ある一つの金型で、部品ごとに、機械加工や焼入れ処理などの工程を、リードタイムと共に登録したサンプル画面です。組み合わさる部品は、その順序関係についても登録されています。
「工程明細」の画面
下図は、上の「パート図」において、それぞれの工程を登録するための画面です。
最早日程のガントチャート画面
下の図は、機械や人が着手できる都合を考慮せず、前詰めした計画表です。
最遅日程のガントチャート画面
一方、下の図は、上の計画表とは逆に、後ろ詰めで計画したものをいただきました。前述した金型納期から逆算して「これまでには終わっていて欲しい」という、それぞれの工程の最終納期を示すという意義での中日程計画であれば、それにあたるものがこちらになると思います。
山崩し・ガントチャート(小日程計画にあたるフェーズ)
山崩ししたガントチャート図①
下図は、工程ごとに着手できるとした日程から、人や機械の空き状況を考慮して割り振ったものになります(自動で差し立てが行われた状態)。冒頭に紹介した大・中・小の日程計画のうち、小日程計画にあたるものになると思います。
中段から下段にかけ「機械別」「担当者別」でのスケジューリングされた結果が表示されており、一番上に「金型全体」でスケジュールされた日程(リードタイム)が表示されています。
現場での運用例として、個々の作業者は下段のところで、その日に作業するものを確認し、現場リーダーは中段のところで、その日各機械で仕掛ける部品を確認することができそうです。
山崩ししたガントチャート図②
下図は、最上段を「部品別工程別」表示で展開した様子の画面をいただいたものです。
先ほど中日程計画にあたるものとして最早と最遅日程のガントチャート画面がありましたが、上図の最上段を見ると、こちらは小日程計画の山崩しによって、実際に作業されるリードタイムとして再調整された中日程計画だと言えそうです。
山崩ししたガントチャート図③
下の図は、機械別のスケジュールの一覧を併せて表示した画面の様子をいただいたものです。
こちらにより現場リーダーや機械担当者は、カレンダー表記されたものと一覧表記で並べられたもの、それぞれで確認することができそうです。
まとめ
以上が、株式会社シー・アイ・エム総合研究所さんからご提供いただいたサンプル画面となります。
私によくご相談いただくのは、自動山崩しの機能について、現実の差し立ての感覚と合わないのではないかとのご意見です。
この点について私の客観的な意見として、近年実装されている山崩しの機能は、様々な場面を想定したパラメータが備わっているので、かなり現場の状況を踏まえた山崩しができると思っています。
またこれもよくお聞きするのですが、「結局、日々の差し立てを行っても、朝に飛びこみ仕事が入ってきて、予定が崩れてしまう。したがって緻密な計画表は意味がなく、ホワイトボードでその日の計画を立てるくらいで丁度いい。」などのご意見です。
そこで私がコンサルティングの際にお話しするのは、私も試作の仕事をしていた身として、日々の飛びこみ仕事はかなり経験しましたが、仕事が飛びこんできたときこそ、本来その日にやろうとしていた仕事をどこにズラすか、またそれ以降の負荷の度合いを把握することが重要で、そういった「先の予定」を再調整し、共有していくにもスケジューラーは有効だと思っています。
多くの金型現場や機械加工現場を見させていただくと、後工程の方で、特定の機械がボトルネックになっていたり、逆に先頭のCAM工程がボトルネックになっていたりと、様々な交通渋滞の状況をお見受けしますが、スケジューラーはそういった渋滞を人の感覚ではなく、コンピュータの頭脳を使って交通整理するのに有効だと思っています。
さらにスケジューラーの用途としてオススメしたいのが、自社に新しい仕事の引き合いが来た時に、設計や加工、組み立て工程などに、受注できるだけのキャパがあるかどうかの確認に使うことです。この用途での使い方としては、金型や部品加工などの登録内容を仮想的に何パターンか作っておき、それを現状すでにスケジューリングされている負荷状況の中に仮入力してみて、現場がキャパオーバーにならないかどうかを確認することです。
これであれば、経営者や営業担当者が、新規の引き合い案件があったとき、ある程度の確信をもって受注可否の判断をすることができます(Dr.工程をこの用途で使う場合は、今回ご紹介したDr.工程PROよりも、「Dr.大日程」で行うのが望ましいそうです)。
私はコンサルタントとして、特定のソフトウェアを推奨することはできませんが、中立の立場として、金型現場や機械加工現場が今抱えている課題に対してスケジューラーが有効なのか、また予算や機能を踏まえた中で、どのスケジューラーが適切なのか、ご相談に乗ることはできると思います。
全く課題が存在しないという現場はそうそう無いとは思いますが、日程計画や納期管理で問題を抱える企業さまの参考になれば幸いです。
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金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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