金型メーカーや部品加工メーカーで有給・男性の育児休暇の取得が進まない理由について個人的見解
今回は久々に、社労士として金型メーカーや部品加工メーカーの労務環境のテーマで書いてみたいと思います。
ニュース等で言われるように、金型メーカーや部品加工メーカーにおいても、有給や男性の育児休暇の取得がなかなか進んでいない現状が続いています。私自身もこの問題について考えることが多く、今回はその見解をお伝えしたいと思います。
コラムの後半には、最近流行りのAIチャットにも同じ質問をしてみて、私との見解の相違にも触れてみたいと思います。
この業界で有給や男性の育児休暇の取得が進まない理由の本質
さて、政府は育児休業給付を実質10割にすることを目指しているようですが、私個人、問題の本質はそこではないと思っています。
もちろん社員さんが休業した際、そのお給料を保障されることは喜ばしいことであり、これはこれでこうした制度がより手厚くなった方が良いことは間違いありません。
ですが金型メーカーや部品加工メーカーにおいて、問題の本質はそこではなく、お給料の問題だけで有給が取れなかったり、育児のためにパパが中長期の休みが取れないわけではないと思っています。
それよりも金型メーカーや部品加工メーカーの仕事は、社員一人ひとりの専門性が強く、今更私が言うことでもありませんが、ワークシェアなど他の同僚などに代替えが効きにくいこと、また一人あたりの売上高や粗利益への影響度が強いことが最も大きな原因だと思っています。
シンプルに表現すると、ある社員さんが1か月休んだ場合、1か月の1人あたり売上高として、例えば120万円とか150万円が飛んでしまうといった感じのイメージです。
これが金型メーカーなどの上流工程になるほど顕著に現れると思います。
例えば、ある標準的な金型を2週間のリードタイムで設計する担当者が、育児休業を取得した場合を考えてみます。
一か月休業したとすると、その月はシンプルに2型受注できないか、外注対応になったとします。
その標準的な金型の売値が約500万円で受注しているとすると、500万円×2型=1千万円、その設計者さんが休んだことで、「会社」として1千万円の売上が宙に浮いてしまうことになります。もしくは設計が出来ないため金型一式で外注することになります。
もちろん上流の設計工程に限らず、下流側、例えば機械加工やハンドワーク工程などにおいても、一人あたりの売上額を想定して、日々の営業活動をしている会社も多いと思います。
したがって、会社が本当に保障して欲しいのは、社員個人のお給料だけではなく、社員さんが休むことで宙に浮いてしまう仕事の分の「売上」や「外注費」だと言うのが、私の周りの会社さんの意見です。
しかしながら、もちろん「休業した日数→その間のお給料」は容易に計算されますが、「休業した日数→その間の売上額」はその証明が難しいため、現実的に算出することは困難です。また業種によってその金額も異なるため、現実問題としてそこを保障することは不可能だと思います。
したがって現在の制度では、仕事に専門性が強く、個々の作業者の役割責任が大きい金型メーカーや部品加工メーカーにおいては、有給や男性社員の育児休暇の取得状況が大きく改善される見込みは厳しいと思われます。
そこで会社として取り得る取り組みとして、「売上」や「外注費」への影響度の問題だと認識されているのであれば、やはりそこに対する対策を、普段から準備しておくことで、「要所」となる工程でお仕事をする社員さんであっても、今後多少なり中長期のお休みが取れる見込みが出来てくるかもしれません。
例えば、金型一式で外注するよりも、部品単位で外注した方が値交渉もしやすく安くあがるのが一般的です。そのため、設計に穴が空くことを最大限避けることを目的としたワークシェアの仕組みを準備しておくなどが考えられます。
AIチャットに同じテーマで質問してみました
ではここで冒頭にお話しした、最近流行りのAIチャットに、今回のテーマについて、特に育児休業取得に絞って質問してみました。
回答は次のようなものでした。
「金型メーカーや部品加工メーカーの男性の育休取得が進まない理由は、様々な要因が考えられます。一つには、男性が育児休業を取得することに対する社会的な風潮がまだ浸透していないことが挙げられます。また、男性が育児休業を取得することで、仕事に対する負担が増えることや、職場での評価が下がることを恐れている場合もあるかもしれません。さらに、男性の育児休業取得に関する情報提供や支援体制が不十分であることも、男性の育児休業取得を妨げている要因の一つです。
しかし、男性の育児休業取得は、家庭内の役割分担を明確にし、女性の社会進出を促進するためにも重要です。そのため、企業側は男性の育児休業取得を積極的に支援することで、社員のモチベーション向上や生産性向上につなげることができます。
以上のような理由から、金型メーカーや部品加工メーカーは、男性の育児休業取得を促進するために、社員への情報提供や支援体制の整備などを行うことが求められています。」
たしかにそのとおりだと思います。ネット記事やニュース、書籍などでも言われていることですよね。
今回の私の見解は、このAIチャットの意見の根本になる内容だと思っており、論点の深さの違いに過ぎないと思っています。
例えば、「職場での評価が下がることを恐れて~」とありますが、休業により「売上」や「外注費」へのインパクトが強い工程で仕事をしている作業者さんほど、この傾向は強いかもしれません。
また「支援体制が不十分であることも、男性の育児休業取得を妨げている要因の一つです」とありますが、やはり根本的な原因に対して効果のあるワークシェア体制を作らない限り、真に「休業できる支援体制」とはならないのではないでしょうか。
まとめ
今回は国の方針や制度のあり方などに対し、一見ネガティブとも取れる内容を書いてしまいましたが、豊かな家庭環境のためには、本来取るべき休暇は取れていくべきだと思いますので、もちろん反対するということではありません。
ですが現実問題、なかなか取得が進まないことにあたり、当事者に近い立場で仕事をしている者として、スポットが当たっていない側面に触れて言及してみました。
今後少しでも金型メーカーや部品加工メーカーの労働環境がよくなることを切に願っています。
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