人材育成の前提となる「ブラックリスト方式・ホワイトリスト方式」という考え方
金型メーカーや部品加工メーカーでの人材育成を進めていくにあたり、私が大前提としていることがあります。
情報セキュリティ分野には「ブラックリスト方式・ホワイトリスト方式」という考え方がありますが、これは何かというと、インターネットにおけるファイアウォールなどで不正アクセスを防ぐ手段として用います。
アクセスを許可するアドレスやアカウントを事前に決めておく方式が「ホワイトリスト方式」で、逆にアクセスを遮断するアドレスやアカウントを決めておく方式が「ブラックリスト方式」です。
違いがお分かりいただけますでしょうか。
セキュリティ効果が高いのは、事前に許可されたものだけしかアクセスが許されない「ホワイトリスト方式」の方です。
「ブラックリスト方式」は、もし管理者側が気づいていない悪意ある侵入者があり、その登録が漏れていれば、その侵入を許してしまうことになります。
逆に「ホワイトリスト方式」は許可されていなければ、不正ではないアクセスも全て遮断してしまうリスクはありますが、不正侵入のリスクは極めて低くなります。
情報セキュリティの解説ではないので、ここまでにしておきますが、まずはホワイトリスト方式・ブラックリスト方式の違いについてご理解いただければ幸いです。
これが金型メーカーや部品加工業での人材育成とどう関係するかと言いますと、
例えば金型メーカーであれば、金型製作に必要な知識やスキルについて、金型の作り方を社内で標準化しておき、その範囲の中で「やってもいいこと・やるべきこと」を教育していく方法がホワイトリスト方式で、逆に「これだけはやってはいけないこと」だけを決めた中で、その他は自由度を持たせ、知識やスキルを習得させる方式がブラックリスト方式になります。
私が、人材育成のテーマでコンサルティングを依頼される際は、いつも「この会社はどちらの方式が適切だろうか?」を、まずは考えるというわけです。
とはいえ、金型にかけられるコストやリードタイムが非常に厳しくなっている今、ほとんどのケースでホワイトリスト方式の教育が求められています。
個々のスキルや金型品質にバラつきがあってはならないうえ、習得期間についても最短であることが求められるためです。
思えば私が30年前、プレスメーカーの金型内製部門ではじめて現場に入った頃は、完全にブラックリスト方式でした。
2次元で設計された金型構造図面は、組図だけが現場に渡され、その構成部品、例えばプレート部品やパンチ、ダイなどの形状は自分たちで読み解かなければならず、現場の加工者自身でバラシ図を手書きで書き、それをもとに加工していきます。
またその部品同士の隙間、例えばパンチとストリッパーとのクリアランスなどは自分たちで決めていきます。
また締結用のキャップボルトが入る貫通穴などについては、例えばM12用であれば、φ13.5であろうがφ14であろうが、どちらであってもさほど問題にはなりません。
ただ自分の肌感覚で、当時主力だったラジアルボール盤で穴加工すると、φ14をいきなり加工すると負荷が大きかったのでφ13.5にしていたというように、さすがにφ12.5では穴同士の位置が合わないなどの問題が起きるため、設計者や保全担当者からNGが出されますが、それ以外なら自分の判断で加工ができました。
と言いますか、やらざるを得ませんでした。これはまさにブラックリスト方式の金型人材育成の方法だと言えます。
当然、ブラックリスト方式での教育は時間がかかります。また、ある程度の応用力が育つ期待が持てる反面、相当の失敗をも経験することになります。
ところが前述したように、金型コストやリードタイムが非常に厳しくなった今、このような失敗により経験を積ませる時間もありませんし、金型製作の方法として主流になっているのは、分業体制であるため、ブラックリスト方式の教育は適しません。
その理由として、例えばある程度の人数が加工現場にいる場合、CAMデータ作成とマシニングセンター・放電加工のオペレーターは、別々の担当者に分かれていることが多いですが、先ほどのようなCAMオペレーターごとに、使用するドリル径やエンドミル径や種類などに個人差があったり、その日の気分で変えたりすると、とたんに機械の段取り効率性は低下したり、工具購入コストなどにも悪影響が出てしまいます(工具在庫が増える)。
これは全ての工程で言えることで、個人に大きな自由度を持たせ過ぎてしまうと、デメリットの影響度の方が大きくなってしまうため、近年の金型人材の育成においては、ホワイトリスト方式、つまりある程度の業務を標準化しておき、それを周知させていく方法が適していると考えています。
ただし、ある程度の上級者であったり、また創造性を伸ばす観点での育成という面でホワイトリスト方式は逆効果になるリスクがあり、こうしたケースではブラックリスト方式の方が適する場合もあります。
なお、ホワイトリスト方式における人材育成では、例えばマシニング加工のオペレーションなどにおいては、標準化によるホワイトリスト化と、その周知が基本となります。
最後になりますが、ホワイトリスト方式による教育においては、日々そのホワイトリスト化する標準化の範囲を広げていくことが企業の技術力UPにつながります。
今回も参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
