そのメーカーの金型部門はなぜ停滞してしまったか?
具体的な社名は明かせませんが、ある成形メーカーの金型部門において、あまりにも古いやり方で金型を作っておられましたので、当事務所でそれを改善していくお手伝いをさせていただいております。
例えば、マシニング加工の事例では、金型部品の荒取り加工において、ハイスラフィングをメインで使っており、手のひらサイズのワークで20ミリの深さもない浅い段差の形状加工においても、荒取りだけで5,6時間、仕上げまで含めると10時間以上かけて加工するということが普通に行われていました。
また私がCAMで、近年主流となっている工具を使って加工データを作成したところ、7,8時間で済む加工を90時間かけて加工するといった部品もありました。
その他、穴あけ加工も工具や加工条件についてやり方が古く、同業他社と比べると数倍の時間をかけた加工が普通に行われていました。
独自の設計や加工方法を導入していくという改善ではなく、まずは概ね同業他社で行われているレベルまで引き上げていこうという取り組みですので、取り立ててこのコラムで紹介する技術的なことはありませんが、
ここでお話ししたいのが、なぜこの現場が数十年も業界から遅れを取ってしまっているのか、今回は要因に触れてみたいと思います。
私が特に気になった、この現場で感じたことは以下の4つです。
- 「やったことないので」が全員の口癖
- 経歴25年以上のベテランでも展示会などに一回も行ったことがない
- 類は友を呼ぶ
- オオカミ少年がいる
まず①の「やったことないので」は、現場改善の最中によく聞かれる言葉です。
例えば、ハイスラフィングを、現在の金型加工では定番中の定番の高送りカッターに置き換えて加工しようとすると、「これは使ったことがないので、ようやりません」という言葉を頻繁に聞きます。
うーん・・・こう言ってしまうと、ほとんどの会社で新しい工具や設計構造などを採用しようとするときの全部が該当してしまうと思うのですが・・・、
とにかくこの発言や考え方が、何か新しいことにチャレンジしようとするときに常に表に出てきてしまい、長年に渡りこの会社の現場の発展を阻害してきたのだと思いました。
それと、②の「25年以上在籍している社員さんも、一度も機械や工具などの展示会に行ったことがない」というのも、私が驚いた事実です。
言ってしまえば「井の中の蛙」状態になってしまうのですが、会社に出入りしている商社さんなどから情報を得ない限り、完全に外部から情報遮断されてしまいます。
なおJIMTOFなどの展示会への見学参加のあり方については、私が見てきた様々な会社の傾向を思い返してみると、次のような分類になります。
- 社長など経営層だけが参加しており、現場などの一般社員は参加していないという会社
- 経営層及び、現場の部長・課長の職制までが参加している会社
- 社員旅行を兼ねるなど、経営層から管理職、一般職まで全員参加している会社
- 一般社員だけが参加している会社
それぞれに意図・意義はあるかと思うのですが、まず交通費などの予算の都合で参加人数が限定されているのか、もしくは、会社としては参加してきて欲しいのに従業員が何かと理由をつけて参加しないという状況になっているのか、ここに大きな違いが出てきます。
今回の「業界からかなり遅れている」事例企業は、上記1.~4.のうち、不本意な1.に該当していました。
「不本意な」と付く意味は、交通費や宿泊費などもちろん会社が出しますし、参加は就業日である平日でも構わないと言っているのにもかかわらず、仕事が忙しいなど理由をつけて、現場の一般社員は全く参加していないという状況だったためです。
それが何十年と続いてきたということです。
上記1.~4.のうち、当たり前ですが予算の都合がつくなら、やはり3.の全員参加が良いはずです。
理由は、それぞれの立場によって、収集する情報が異なるためです。
一般的に新しい工具やその加工条件に関与するのは経営層ではなく、実際に使用するのは現場の一般社員になります。経営層の方々はそれよりも工作機械の価格相場や、業界のトレンド情報などの収集を行った方が、長期的な会社経営のためには有益だと思います。
したがって、30年以上前の古い加工方法をとっている今回の事例企業にとっては、少なくとも上記4.のように一般社員だけの参加であっても、行ってみるべきだったと思います。
それがなかったために、陸の孤島のような「井の中の蛙」状態になってしまったと思われます。
次の③の「類は友を呼ぶ」ですが、これは根本原因というよりは、状況をより悪化させてしまった後発の要因になると思うのですが、面白いようにほとんど全ての社員が、上記①の「やったことないので出来ません」や、②の「展示会に一回も行ったことがありません」に該当しています。
また特に「類は友を呼ぶ」を感じるのが、中途で入社してくる方も見事に、上記①②に該当する方が入社してきます。
これはそういう雰囲気を面接のときなどに感じとり、逆にそれが居心地の良さとして感じ、入社を決めているのかどうかはわかりませんが、結果として同じ属性の集まりとなり、新しい人が入って来てもその空気が薄まることがないということです。
この「類は友を呼ぶ」となってしまう点について、何か具体的な根拠があるかというと、そういうものは存在しませんが、結果としてそうなっているということです。
最後の④の「オオカミ少年がいる」ですが、これも多くの製造業あるあるでして、特別今回の事例企業に限った話ではないのですが、現場の一般社員さんが抱える些細な不平不満を、さも大ごとのように取り上げて、管理職や経営上層部にクーデターが起きるぞと言わんばかりに声高に炎上させる人がいたりします。
これも何か改善の取り組みを直接阻害したというよりも、例えば、新しい高速工具などを導入しようとした際に、「夜中に壊れたらどうするんだ」とか「じゃあそのテストをやるために、こっちの仕事はほかっておいていいのか」など、些細なため、当事者も直接上層部にあえて言う気がないというレベルの不平不満であっても、それを取り上げてきて「こんな意見が挙がっている、こんなことを続けたら現場の大半が辞めてしまうぞ!」など、あたかもオオカミが出たぞー!と言わんばかりに、話を大きくし、炎上させます。
こういう人がいると、現場の改革を進めてよいか、経営層としては迷いが出たり、躊躇することもあります。
そもそもこういうオオカミ少年的な人の目的は何なのか?という疑問がありますが、例えば、自分の存在価値をもっと認めてほしいとか、逆に今の職場や人間関係に不満があり、改革に成功して理想的な職場に変わっていくことが癪に障るということもあるのかもしれません。
本当の心根は、本人ですらわかり得ないことかもしれませんが、私から見て、この事例企業にオオカミ少年的な現象が存在していたということです。
なお、こういった現場の改革をどう推し進めるかですが、コンサルタントである私自身が、自分でCAMを使って加工データを作り、また金型設計においては解析ソフトを購入しているのに使っていなかったので、私自身がCADを使ってモデリングをし、シミュレーションソフト上で製品寸法が出るまで自らモデル改変をするといった、直接実務でサポートしております。
なかなかここまで現場の発展が停滞するということはそうそうないかと思います。改めて最後に書きますが、前述した①~④の要因は無いにこしたことはありませんよね。
- 「やったことないので」が全員の口癖
- 経歴25年以上のベテランでも展示会には一回も行ったことがない
- 類は友を呼ぶ
- オオカミ少年がいる
御社はいかがでしょうか。参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
