新出工業のコンサルティング事例
先月号に引き続き、新出工業(愛知県名古屋市 TEL 052-501-0704)のコンサルティング事例を紹介する。
同社は、従来の個人事業体制から、チームによる組織体制へと変革を図っており、今年新たに従業員を4名採用した。その成果を発揮させるべく、筆者と共にさまざまな取り組みを行っている。
同社は主に設備メーカーなどで製造される、生産設備機械の部品のフライスや旋盤加工などを行う機械加工業であるが、同社の取り組みは、チームとして組織をまとめていく点で、金型メーカーも、ぜひ参考にしてもらいたい。
本号で紹介する取り組みのポイントは、①金型メーカーの経営目標は何の指標を使えば良いのか、②会社目標と個人目標をリンクさせる方法、③機械加工メーカーの人事制度の一例、④機械加工の育成方法の一例、などである。それでは、順を追ってみていこう。
組織の見える化と人事制度の構築
同社はまず、採用した技術者の統制を図るため、a)組織の見える化と、b)人事制度の構築を行った。その目的は、a)責任と役割分担を明確にする、b)技術者のがんばる基準を明確にすることである。
まず組織の見える化については、直近、1年先、3年先、5年先までの組織図を作った。これについては第9回の堀部セイコーの号でも紹介したが、人による体制図を作るのではなく、機能別で作ることがポイントである。機能別で組織図を作ると、多くの金型メーカーが、組織の中に兼任者が多いことに気づかされる。この兼任者が多いことに気づくための機能別組織図だ。
兼任者が多いことは、マルチプレーヤーの存在というメリット面もあるが、安定した事業の継続という視点においては非常に不安定である。すぐに解決は難しいかもしれないが、ぜひ1年後から数年後には解消したい課題である。そういった意味で、筆者はクライアント先には、1年後や3年後の機能別組織図に責任者・担当者の名前を入れた体制図を作ってもらっている。
次に人事制度であるが、本来企業としては、ア)等級制度・イ)給与制度・ウ)評価制度の3つがしっかり整い、機能していることが理想である。今回同社は、ア)等級制度と、ウ)評価制度の整備に着手した。
等級制度については、主任・係長・課長・部長・工場長といった各職制に必要な、能力と責任範囲、給与手当などを明確に規定した。これにより、何となく就業年数が経過したから昇格したとか、○長なのに△△ができない、といったギャップを会社として減らしていくことができる。
また、評価制度については、後述する個人目標をベースとし、毎年の期初、技術者ごとに設定する個人目標について、その達成度を期末に評価することにした。
ここから具体的なコンサルティングの取り組みを見ていこう。まず成果指標の設定であるが、一企業の特定部門ではなく、会社全体で成果を見る場合、筆者は、A)労働分配率と、B)一人あたり付加価値の2つで見ている。
労働分配率を使うことで、企業として最も負担の大きな固定費である労務費と、売上から企業に残る価値(付加価値=売上-社外に支払う費用(材料費や外注費))のバランスを管理することができる。
この割合は少ないほど良好で、40~50%であれば良好から普通、50~60%なら普通から悪化の兆候ありといった見方をする。
また労働分配率だけでは、仮に付加価値が少なくても、労務費を削ることで数値改善を図ることができるが、企業としては本来、稼いだ付加価値をがんばる技術者へ多く分配することがあるべき姿である。したがって、一人あたり付加価値の指標も使い、絶対額として、どれだけ多くの付加価値を稼いだのか管理するようにしている。
この数値については、事業規模にもよるが、一般的な技術者の給与から算定すると、月次で70~80万円以上あると望ましい。
同社はこの2つの指標のうち、経営者は労働分配率を、技術者は一人あたり付加価値を、毎月の目標としている。特に一人あたり付加価値については、一定期間ごとに達成数値に応じて、例えば、月次ベースで80万円を超えたら特別賞与、100万円を超えたら遠方への社員旅行などといったインセンティブを与えている点が面白い。
次に、設定した会社全体目標に対し、具体的に各技術者が何に取り組んでいくかを取り決めていった。実はこの点が、同社の出水社長が最も悩んでいたポイントであった。
実は多くの金型メーカーでも起こっている問題である。例えば、売上を上げようとか、利益を増やそうといった会社全体目標は、これだけ掲げているだけではうまくいかないことが多い。なぜか。
それは、会社全体目標だけでは内容が漠然としており、各技術者個人の具体的な「行動」までは明確になっていないためである。言い換えれば、個人が明日からとるべき「行動」まで落とし込んで、初めて会社目標は機能する。
そこで同社は技術面を中心に、個人目標の整備に取り組んだ。毎期の会社目標を達成するために、各技術者が、どんな技術を・どれだけ・いつまでに習得できなければならないか、洗い出していった。
主に使ったのは、スキルマップである。筆者は習得する技術を「知識」と「技能」に分けて教育するよう薦めている。
知識は、OJTやOFF-JT、本、会社で作製・蓄積している資料などを使って記憶をしていくものであり、技能は反復効果を効かせて練習し徐々に習得していくものである。したがい、スキルマップに記載される項目としては、知識面は「○○を理解している」と表現され、技能面は「△△ができる」と表現されるはずである。
こう表現することで、ある項目で知識不足・未習熟があった技術者は、それを是正するために、○○を全て覚える、△△を標準時間で作業できるようにする、といった次の対策につなげていくことができる。
例えば、マシニング作業を例にとってみる。知識面においては、主に使うGコードを全て理解している、段取り手順を全て理解している、全ての穴加工種類のプロセスを理解している、全ての切削パターンのプロセスを理解している、測定方法を全て理解している、トラブルシューティングを一人で対応できる、などの項目が考えられる。
また技能面においては、段取り作業を標準時間内で作業できる、工具セットを標準時間内で作業できる、加工プログラミングを標準時間内で作業できる、などが考えられる。
このように知識面は、知っているか・正しく理解しているかが評価のポイントであり、技能面では、標準時間内で作業できるほど習熟しているのか・標準よりも早く作業できるのかといった習熟度の評価がポイントである。
今後の同社に期待すること
今年の秋、同社は新たにマシニングセンターを導入し、事業の幅を広げる計画をしている。同社は、汎用機械とNC機械の使い分けができているため、マシニングについても、コスト・必要品質に合わせた使い方をしていくことであろう。
企業として組織の分業と統制がとれる体制を整備し、今後まさにチームとして一体的なものづくりを行っていこうとする同社の技術力・経営力の成長に期待をしている。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054