株式会社 プロイストのコンサルティング事例
本号で取り上げる金型メーカーは、株式会社プロイスト(愛知県安城市 TEL 0566-91-6752)である。同社の事業はさまざまな面で、珍しい点が多い。
まず同社が製造する金型は、樹脂の成形金型であるが、熱可塑性樹脂ではなく、熱硬化性樹脂を成形する金型である。その生産量の割合は、熱可塑性樹脂が 9 割を占めるとも言われ、熱硬化性樹脂の成形金型を扱うメーカーの数はそう多くはないと考えられる。そうした点で、同社の事業はニッチな分野と言える。
また同社は、この 7 月で創業から 7 期目を迎えるという比較的若い会社である。よくニュース等で言われることであるが、ここ最近、製造業での創業は極めて少ない。
そこにはさまざまな理由が考えられる。まず、製造業は大きな初期投資を伴うことが多く、そのため事業リスクが大きい。特に金型事業は、機械加工用の工作機械、設計業務で使用するソフトウェアなど、金額負担の大きな投資を伴う。設備投資は、創業時から大きな固定費としてのしかかり、損益分岐点における黒字化までのハードルを高くさせてしまう。競争力・事業キャパと、投資額とのバランス判断がとても難しい。
また、金型業界においては分業化が進み、設計から加工、組立・トライまで全てこなすような技術者が減ったことも、創業社長がなかなか生まれない要因と考えている。さらに、新たな商流を作る点においても、ほとんどの分野ですでに固定されており、新規参入は難しい。
20 年、30 年、さらにもっと以前の中小企業の創業は、人脈を通じた特定顧客からの生産移管や技術指導などがあり、顧客との深い関係強化によって、着実な企業発展を行うこともできた。しかし最近は、そういった繋がりは希薄化し、価格や納期の競争など、ドライな取引関係が多くなってきている。それだけ国内だけに留まらず、海外を含めた競争が厳しい環境になっている。
そうした環境もあり、特に製造業での創業は、従来よりも格段に難しくなっている。しかもリーマンショックの直後、2010 年、業界全体が非常に不安定な中、当時 35 歳であった大島社長は、マシニングや 3D スキャナ導入など大きな設備投資も行いながら、同社を立ち上げている。しかも、ここまで順調な売上成長を遂げている同社の存在は、全国で見てもとても希少な存在であろう。
同社の強み(職人技術・完全 3D 設計)
創業から順調な成長を遂げている同社の一番の要因は、工作機械やソフトウェアの性能ではなく、高い職人技術であろう。大島社長をはじめ同社の技術者は、熱硬化性樹脂の成形において、金型製作だけでなく、成形のノウハウから包括的に持っており、樹脂製品メーカーからは、製品設計の段階から相談を受け、そのまま金型が発注されるというケースも多い。
これにより、同社で製作された金型においては、顧客への納入後、成形条件や仕様などの調整の手間が極めて少ないというメリットがある。 また、同社の得意技術として、TIG・MIG など各種溶接、金型の磨き仕上げ、複雑な水冷配管などがある(写真 1)。これはどれも自動化・標準化しづらい属人的な作業であり、顧客メーカーでも対応できる作業者が年々減っていると言う。今後ますます需要が高まる技術分野であろう。
さらに同社の強みとして、職人によるアナログ技術だけでなく、CAD を活用した完全な3 次元の立体設計を実現している点もある(写真 2)。金型メーカーによっては、3D 加工を要する意匠面だけのモデリングに留めるメーカーも多いが、同社の設計担当の坂口氏は、構造部や周辺部品までを含めた、完全な 3 次元の設計を行っている。
これは、顧客メーカーからの相談を受け、金型仕様を提案型で設計していく同社の受注スタイルにおいてとても理に適っており、立体で仕様を把握できることで、顧客とのコミュニケーションを円滑にしている。
また、同社現場に図面を提供する際には、側面図や断面図などの紙図面は作成しない。立体で形状を把握できる 3Dビューワで対応している。これにより、設計工数を削減することができ、同社の強みである短納期対応に寄与している。
事業拡大に伴う人材採用と新たな課題
ここまで職人技術を強みにしてこれたのは、大島社長の前職からの仲間で構成された少数精鋭の技術者集団で仕事をしてきたためだ。しかし今後の事業拡大にあたっては、新たな戦力の採用も必要である。ところが最近の労働者不足の折、今のようなプロ集団と同レベルの経験者の採用は難しい。そこで筆者が、今年同社が新規に採用した 3 名について、未経験者ではあるが、金型技術者として早期育成を図れるよう、大島社長と共に、技術研修を行うことにした。
未経験者に必要な教育
業界未経験者に必要な知識として、①金型を作る意義、②個別受注生産である金型の作り方の特徴、③製造工程の流れ、④各工程の作業の概要、⑤金型製造を取り巻く詳細な技術知識、などがある。
しかし、私自身も 25 年前に経験したが、これらは OJT、OFF-JT で教えられるはずが、昨今、短納期・低コスト製造が優先され、採用後の教育は、個々の作業オペレーションに留まってしまうことが多い。そうなると、そもそもものづくりへの興味も湧きづらくなってしまううえ、技術向上への伸び悩みを生んでしまう。
そこで筆者のコンサルティングでは、金型づくりを取り巻く周辺知識を体系的に教える研修を行っている。例えば、機械加工であれば、設計者向けの加工技術の本などを用いた研修を行っている。
こうした体系的な学習を行ったうえで、実際の金型製造で必要な知識として、ア) 機械加工の種類とその選定基準、イ) 金型で使われる材料種類と特性、適した加工方法、ウ)具体的な切削技術などの学習へ進んでいく。大まかな全体像から段階的に、これから自分が担当する作業がどのような位置づけなのか、なぜ必要なのか、何に留意するのか、などを最初に教えておく。今後技術者として、大きな目標を持とうとしても、まずは全体像がわからないと無理である。こうした長期の目標を個々の技術者に持たせるためにも、早めに体系的な学習を行うことは重要である。
同社は、NC 機から汎用機械まで、さまざまな設備を保有していることで、研修では実物を見ながらイメージ付けも行い、座学と実践の両方で効果的な研修を行っている。
今後の同社の取り組み
同社は、金型づくりだけではなく、成形のノウハウまで包括して持っている強みを活かし、顧客へ提案型サポートを行っている。今後はその強みを活かし、より多くのメーカーへサポートを広げていく方針である。また、小型の精密部品から大型のマシニング加工まで対応できる点も活かし、機械加工の受注も増やしていく。そこには、新たな戦力となる新規採用者が早期に習熟し、機械の性能を活かせる加工技術を身に付けていくことが必要である。
大島社長は、これまでの少数精鋭から、企業として着実な発展を遂げられるよう、組織体制や人事制度の整備を進めている。効果的な技術研修と企業組織の整備によって、今後さらなる事業拡大を実現させていく同社に大きな期待をしている。
金型・部品加工業専門コンサルティングからのご案内
ホームページの技術コラム本の第8巻が発売されました!
設計部署や製造現場、管理部署にぜひ一冊。
経営者や部長などマネージャー職の方々から、悩める現場リーダーへのプレゼントにも最適です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【改善・管理の上級編】セミナー動画が発売中です【お得なDL版あります】
過去に大手セミナー会場で、代表コンサルタントが講師として登壇した内容をZOOMで再収録しました。
内容は、加工や管理における上級コースとなります(基礎知識はすでに持っておられる方向けになります)
動画セミナーですので、いつでも何人でも受講でき、長時間一気に受講する必要もありません。隙間時間を有効に使って受講できます。
お買い求めしやすいダウンロード版もございます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【書籍販売中です】経営が厳しい金型メーカーのための本
このホームページに掲載している多くの技術・管理コラムから、経営が厳しい金型メーカーのために、大きな投資に頼らず、意識面や仕事の取り組み方などから改善改革していける方策に関するコラムを集めた本をつくりました。
こちらの書籍を販売しております。内容は、366ページの大ボリュームとなっております。
ぜひ社員の皆さまで読んでいただければと思います。また、金型メーカーを支援される金融機関や公的機関、会計事務所やコンサル会社でお勤めの方々にも、読んでいただければ幸いです。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
YouTubeを使った上級セミナーを配信中です
金型メーカー・部品加工メーカーにおける、個別テーマの上級セミナーを配信しております。
YouTubeによる動画配信ですので、ネット環境があればいつでもどこでも視聴できます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための管理職育成マニュアル」発売中です
当サイトの管理職育成ルームに掲載しているコラムを集めて編集したものになります。
金型メーカーや機械加工メーカーで、新たに管理職になられる方や、すでに管理職としてお仕事をされている方向けに、ストーリー形式で、心構えから具体的に取り組む業務内容まで、幅広くまとめております。
くわしくは、こちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・部品加工メーカーにおける処世術」が発売中です
こちらの書籍は、金型メーカーや部品加工メーカーにおいて、国内全体で賃上げの機運が高まる中、勤める会社に貢献しながらも、ご自身の付加価値・市場価値を高めていこうとされる方々の一助になるような内容をお届けすることを目的としています。
「処世術」をテーマにした一般書籍はたくさんありますが、主にホワイトカラー向けのものが多く、金型メーカーや部品加工メーカーのお仕事ですぐに使えるものが少ないと思っています。
一方この本では、金型メーカーや部品加工メーカーの現場「あるある」を題材にしており、そこでお仕事をされる方々に身近なわかりやすい内容にしております。
簡単なワークも掲載していますので、社内研修にもお使いいただけます。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための自己診断ハンドブック」が発売されました!
私がコンサルティングの初回訪問時や、無料診断サービスにおいて、訪問先企業の製造現場で確認する項目を解析付きで紹介しています。
金型メーカーや部品加工メーカーに皆さまに、自社をセルフチェック(自己診断)するために使っていただければと思っております。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
2パターンの技術セミナーレジュメを販売いたします
日刊工業新聞社さん主催で行われた、機械加工メーカー向け、金型メーカー向け、それぞれの技術セミナーで配布されたレジュメを販売いたします。どうしても遠方で参加できないといった方や会社さまより、レジュメだけでも使いたいとリクエストがあったためです。
当事務所のホームページに掲載されているコラムの内容がベースとなっておりますが、それとの違いとしては、具体的計算と事例ワークなどを盛り込み、ホームページよりも手厚く解説しております。
本来レジュメと言いますと、図やイラストがほとんどで、言葉による文章が入っていないイメージがありますが、本レジュメはそうではなく、復習がしやすいよう、多くが文章で構成されており、1人で読み進めることができます。
くわしくはこちらのページからどうぞ
ミドルマネジメント層向け人材育成セミナーのレジュメを販売いたします
ミドルマネジメントの人材育成のテーマで、講演をさせていただいた際に作成したレジュメ(当日映写したパワーポイントファイルと同じものです)を販売いたします。
日程や生産管理、品質管理だけが幹部・管理職の仕事ではありません。儲けるためのマネジメントが必要です。
そういった視点や意識を持ってもらうためのきっかけとしてオススメの一冊です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
4コマ漫画ギャラリーを開設しました
コラムページにプロローグとして添付している4コマ漫画を集めたページを開設しました。
こちらをクリックすると入れます
コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054