株式会社 建和【前編】のコンサルティング事例
本号で紹介するプレスメーカーは、株式会社 建和(愛知県安城市 TEL 0566-92-6295)である。同社は、主に自動車部品のプレス量産加工を行っており、60tプレスから300tまでの単発・順送型いずれも対応しており、サーボプレスも有効に活用している。プレス板材についても、普通材からハイテンまで幅広く対応している。
同社の強みと事業上の課題
同社のプレス加工は、前述したように自動車部品分野において幅広い対応ができるなかで、特に安定した順送プレス加工に強みがある。この安定感により高い操業度・稼働率を生み出している。筆者も同社工場内に滞在しているときは、その途切れないプレス機械の稼働音に、生産の高い安定度を感じる。
こうした生産を行ううえで、金型品質はもちろん重要になってくるわけだが、同社にとって全く問題がなかったかといえば、そういうわけではない。
これは同社だけに限ったことではないが、総じてプレス単価が下落していることにより、その製品に用いる金型の製作費も下げざるを得なくなっている。言い方を変えれば、プレスメーカーとして、充分な金型費をかけられないということになる。
そのため例えば、本来強度的に必要な金型鋼材が使えなかったり、プレス成形精度に必要な工程と型数で製作できなかったりといった問題が起こる。
そうした影響を最も受けるのは、その金型を使う立場にあるプレスメーカーである。もちろん同社とて例外ではない。
事業上の課題に対する同社の取り組み
そこで同社は、これまで自社で経験のなかった金型設計と製作を自ら行うことを決意した。これには金型設計システムの進化や、補助金の活用などもその背景にある。
同社はこうしたプレスメーカーにとってのチャンスを見逃さず、新たな事業に打って出たのである。
同社の取り組みの特徴は、単に金型メーカーが従来行ってきた方法を後追いするのではなく、最新のソフトウェア・機械設備も活用したうえで、競争力のある金型製造技術を追求している点である。
具体的には、次の3つである。
- 徹底したシュミレーション技術の活用による自社独自のプレス工法の確立
- 3次元システムによるフィーチャー設計の活用
- システムのカスタマイズによる自動化の追及
これらの取り組みについて、具体的にみていく。
シュミレーション技術による独自プレス工法の確立
同社は、自社で金型設計を行うにあたり、3次元で設計することにこだわった。その理由として、成形シュミレーションとフィーチャー設計により、同業他社よりも金型製造リードタイムを縮めたいという狙いがあるためだ。
成形シュミレーションを活用する効果として、同社が狙っているのは、①プレス工程数を減らすこと、②トライ回数を1回で済ますこと、である。
プレス工程数を極限まで減らす試みについては、同社が保有するダイクッション圧・最大20トンのプレス機を、シュミレーション技術と合わせて活用することで、従来のプレス工程とは異なる新たな成形方法を考案している。この技術については、別の機会で改めて紹介させてもらいたい。
同社のシュミレーション業務については、代表取締役である山本道典氏が自ら行い、これまで調達してきた金型にはない新たな工法を日々模索している。
3次元システムによるフィーチャー設計の活用
3次元設計を行うにあたり、同社はCAD/CAMとしてVISIを使っている。このVISIの持つフィーチャー機能を活用し、設計工程以降のリードタイム短縮を狙っている。
ここでいうフィーチャー設計とは、金型を3次元で設計する際に、加工情報まで合わせて定義していくことをいう。例えば、金型に締結のためのキャップボルトを配置すると、金型を構成するプレートごとに、ザグリやタップなどの加工が定義される。
これは従来の金型メーカーの工程である、金型の組図を設計担当が製図し、バラシ担当がプレート図面や部品図を作図し、それを現場に提供し、現場の機械担当者がプレート図面や部品図を見ながら加工データを作成するといった工程と比較すると、加工用の図面作成や加工データの作成工数を省くことが可能になる。
また、複雑な金型の2次元組図については、それを「読める」熟練者も昨今は減ってきている。その点、3次元設計された金型構造は、若手技術者も構造を把握しやすく、熟練者も忙しい時間の中、すぐに構造を把握できるメリットがある。
ただしこのメリットは、同じシステムで構成される社内プロセスでのみ活かされる。したがって外注製作する場合には、VISIの設計データに定義された加工データは展開できない。
そこで同社は、3次元設計した金型データから、外注用の加工図面の出力を自動化することで、対応を図っている。
こうした「自動化」こそが、同社が考える独自の金型製造システムの本当のキーワードになる。
システムのカスタマイズによる自動化の追及
同社は、スケジューラーソフトも導入しており、徹底してムダのない効率化した製造プロセスを模索している。
スケジューラーソフトについても、ここ最近多くのシステムが販売されているが、同社の選定指針は「オリジナルカスタマイズができること」であった。
この指針は、設計システムや現場設備であっても同様である。それは、同社が考える「他社よりも短いリードタイムの金型製造プロセスの構築」の次ステップが、「徹底した自動化」にあるためである。
多くの中小製造業では、少子化のあおりを受け、優秀な人材の確保が年々厳しくなっている。同社も人材確保の厳しさは例外ではない。そこで、今後益々厳しくなる状況に対し、山本社長が考えた道筋が、金型製造の徹底した「自動化」である。
同社が現在進めている3次元システムを最大限利用した金型製造プロセスは、将来の「自動化」のための前準備である。
筆者のコンサルティング
このように同社は、昨今の設計システムの進化や補助金の活用といった、プレスメーカーにとってのチャンスを最大限利用し、自社に大きな変革を起こそうとしている。
ただし、他の金型メーカーと比較して、やはりあくまでも新規参入企業であり、当然、金型製作については、積み上げてきた歴史というものがない。
そこで筆者は、同社が考える中長期の新たな事業構想に対し、23年のプレス金型や機械加工の経験をもとに、金型メーカーや機械加工メーカーが積み重ねてきた成功や失敗を踏まえ、きちんと「地に足の着いた」イノベーションを実現させるべくサポートを行っている。
まずは同社における川上工程の、シュミレーション→フィーチャー設計→社内・外注への最適展開、といった流れにおいては、他社に負けないリードタイムの体制を確立させることができた。
次は、設計システムのさらなる自動化や、川下工程である機械加工の技術力UPと自動化といった技術テーマに取り組んでいく計画である。
今後の同社の取り組み
今後同社は、本格的な金型製造における自動化に向け、ロボット導入のための補助金なども活用しながら、着々と進めていく構想である。
従来のプレスメーカーが抱える事業課題の解決を図り、自社独自のプレス技術を見据えながら、中小製造業全体が抱える問題にも「自動化」という答えで解決させようとしている同社に、筆者は大きな期待をしている。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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