株式会社 建和のコンサルティング事例(型技術2022年3月号掲載)

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株式会社 建和のコンサルティング事例(型技術2022年3月号掲載)

本号で紹介するプレスメーカーは、株式会社 建和(愛知県安城市 TEL 0566-92-6295)である。本企画での同社の登場はこれで4回目である。

かれこれ6年以上に渡り、同社のサポートをさせてもらっているが、昨年金型メーカーにとって身近な課題の解決につながる、いくつかの設備導入を提案するお手伝いをさせてもらった。今回はその事例を紹介したい。

まず昨年の同社の動向であるが、ハイテン材を用いたプレス製品の需要が高まり、社内で製作する金型数はますます増加している。

そのような中、同社ではとても意欲的な設計リードタイムの短縮に取り組んでおり、金型のサイズにもよるが、1人の設計者がさばいている金型数はひと月あたり10を超える。

設計する金型はそのほとんどが順送型であり、また比較的2次元設計よりも工数がかかりがちな3次元設計でありながら、である。しかも構造設計完了後に行う材料や市販部品の発注業務まで含んで、このペースである。これについては、会社全体でITリテラシーが高い同社ならではという強みがあり、日々自前で構築している種々の自動化システムが寄与しているところが大きい。

さらに構造設計の前に行う工程設計では、ASU/P-formを使った成形シミュレーションも実施している。精度の高いパンチ・ダイのスプリングバック補正と、抜き加工のトリムラインも導き出したうえで構造設計を行っており、それだけの手順を踏まえながらの設計スピードには本当に驚かされる。

一方、これだけのリードタイムで設計業務が進むと、そのペースで加工現場に設計データが渡されることになり、同様に加工現場も生産性を高めていかなければ、追い付いていかないことになる。

金型の機械加工現場の仕事の難しいところとして、機械加工に従事する人数を増やせば、生産数が増えるというものではない。マシニングセンターや放電加工機を主力とする近年の機械加工においては、むしろ作業者の人数よりも機械台数が生産数の決め手になることが多い。

ところが、やみくもに機械台数を増やそうにも作業エリアの面積は有限であり、その限られた面積に設置できる機械台数の制約の中で、最大の生産数量を発揮しなければならない。

そこで、可能な限り機械一台あたりの出来高を高めていかなければならない。いかに多能工として各作業者が一つでも多くの作業を担当できるようになるか、またその担当する作業においていかに手離れ良く段取り作業をしていくか、この2点が生産性を高める重要なポイントになる。

この点について、同社の機械加工にかかわるメンバーは、密接なチームワークと、スキルマップなどを使った人材育成の仕組みにより多能工化を計画的に進め、年々その出来高を高めていくことができている。

一方、「いかに手離れ良く段取り作業をしていくか」の点について、筆者が山本社長に提案したのが、下記に記す3つの自動化設備である。以下、それぞれ順に紹介する。

ワイヤーカット放電加工の自動化設備

同社のみならず多くの金型メーカーでは、テーブルを広く使うことで、特に夜間に多数のワークを仕掛け、生産性を高めることに取組んでいる。

しかし、夜間や週末、一つの機械に複数のワーク原点を使ったワイヤーカットの多数個取り加工は、高い生産性を発揮できる反面、中子と呼ばれる切り落とす中身の部分が落下しないよう、切り落とす軌跡の最後、残り2、3ミリの部分の加工を残しておくことで繋いでおくが、翌朝、それを切り落とす作業が待っている。

この作業が意外と無視できない工数を発生させており、切り落とす中子が多いワークになると、これで午前中の作業が埋まってしまい、午後まで次のワークに乗せ換えることができない時もある。この切り落とし作業の工数は、管理者にとってあまり表面に出てこない隠れた工数である。

そこで筆者が提案したのが、溶かしたワイヤー線を接着剤のように切り落とした中子に仮止めしておく機能を持つ、西部電機(株)製のワイヤーカット放電加工機の導入であった。

図1 同社が昨年導入したワイヤーカット放電加工機

これにより、切り落とす中子は仮止めされているが、すでに切り離されている状態であるため、翌朝は叩き落とすだけの作業で済ますことができる。

また夜間無人加工の翌朝には、切り落とした後に2ndカットや3rdカットの作業があるが、同社が導入したワイヤーカット放電加工機には、コアキャッチと呼ばれる、溶着されている中子を自動で叩き落とし、回収する装置が付けられており、これを使いこなすことで、夜間に切り落としとその後の2ndカットなどの追加工まで自動で行うことができる。

同社ではこの設備導入により、ワイヤーカット加工における「可能な限り機械一台あたりの出来高を高める」ことに寄与させていく。

平面研削加工の自動化設備

同社が製作する順送のプレス金型では、金型を構成する各プレートの厚みについて、±0.01ミリ以下の公差で仕上げなければならない。

その厚さを仕上げるため一般的に平面研削盤が用いられるが、±0.01ミリ以下の公差で仕上げるとなると、特に最後の追い込みの段階で、テーブルからワークを降ろしマイクロメーターにより測定するといった作業を何度も行うことになる。

特に、HRC60前後の硬度を持つプレート部品などはその作業頻度が高く、作業者の手離れを悪くしている。

そこで筆者が提案したのが(株)岡本工作機械製作所製の、自動で機上測定を行うことができる平面研削盤の導入である。

これにより今後は、プレート一枚あたりの研削加工にかかる作業者の工数を減らすことができ、「多能工として作業者が一つでも多くの作業を担当する」ための時間を捻出することにつなげることができる。

マシニングセンター加工の自動化設備

「担当する作業において、いかに手離れ良く段取り作業をしていくか」という視点において、マシニングセンター作業での、加工後のワークの寸法確認はそれなりに無視できない工数を要する。

同社の金型には複雑な形状のパンチやダイ部品が多く、加工する形状によって、一回の加工で狙いの寸法公差に入る部位とそうでない部位が存在する。そのため、狙いの寸法公差に入っていない部位を抜け漏れなく機上測定によって見つけ、必要であれば再加工する必要がある。

そこで筆者が提案したのが、CAMソフトのhyperMILLを導入し、このソフトに搭載されている機上プロービングという機能を使い、形状加工後にタッチプローブによって加工面を自動で測定させることであった。

図2 昨年導入した自動機上測定を行うマシニングセンター

これにより形状加工の後、そのまま続けて指定した箇所の自動測定を行うことができ、作業者が機械に長時間張り付いて測定作業を行うことがなくなることで、これも「多能工として作業者が一つでも多くの作業を担当する」ための時間を捻出することにつながる。

以上、昨年筆者が提案した「手離れ良く段取り作業をしていく」ための同社の設備導入事例を紹介したが、これらの設備をうまく使いこなし、狙い通りの生産性を発揮していくためには、あくまでそれを操る加工者の能力が必要である。

チームワークと管理された人材育成の仕組み、身近な課題解決に直結する設備導入によって、内製金型の生産性を高めていこうとする同社に、筆者は大きな期待をしている。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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