株式会社 近藤製作所のコンサルティング事例②(型技術2021年2月号掲載)
本号で紹介する機械装置メーカーは、株式会社 近藤製作所(愛知県蒲郡市 TEL0533-67-1111)である。同社が本企画で登場するのは2回目である。
同社は、自動車メーカーや工作機械メーカーなどで使用される、自動装置の設計製造を行っており、ストッカーなど自動装置をカタログ販売する事業と、顧客ユーザーが要求する、材料供給からストック、搬送、加工、検査など全て自動化するシステムを一式で請け負う事業とを行っている。
同社の強みは、①幅広い顧客ユーザーに対応できる技術・設計力、②顧客ユーザーごとの細かな要求に対応できる小回りの良さ、③細かなユーザーのオーダーメイド受託に対応できる設計職人集団といった点である。
その強みの根幹である設計部・開発部において、設計職人集団である半面、設計者ごと自己流に派生した図面が、社内に根付いてしまっているという課題があった。
そこで、開発部・設計部主導による「設計改善研究会」を筆者と共に発足したわけだが、前回登場時は活動開始から半年後ということで、プロジェクトの方向性などを紹介した。その後1年半以上が経ち、一定の標準化の仕組みを構築することができた。
この研究会で整備した仕組みは、都度設計を行う金型メーカーでも参考になると思われる。今回はその後の進捗状況と整備した仕組みの中身などを紹介する。
同社で構築した仕組みは、大きく分けると次のようなものである。
- 主要装置と構成部品の標準化(社内カタログの整備)
- 標準図(テンプレート)を設計メンバーで活用していくためのルールの整備
- システム原価を適正化していくための業務フローの構築
以下、順にこれらの内容を詳しく見ていく。
1. 主要装置と構成部品の標準化(社内カタログの整備)
まず、自己流にアレンジしていた図面ファイルが設計者ごとに蓄えられているため、設計者ごとに設計する装置の選定部品や形状に個人差が生まれる問題がある。
そこで設計改善研究会では新たに、設計者全員の標準となるべき組み立て図面と構成部品、それぞれを標準化した。
同社ではこれを「KONSEI標準図」という規格で管理することをとり決め、主要な装置についてコード番号を決めると共に、組み立て状態の設計データを蓄積していくこととした。
また構成部品についても、設計者ごとに部品の材質や形状を決める考え方にバラツキがあったため、今後は材質と形状ごと規格としてまとめ、設計時にはここから選んで使用するルールとした。これはまさに同社オリジナルのカタログ部品と言えるものである。
ただし今回の標準化は、顧客ユーザーごとそれぞれ異なる仕様でシステム一式を請け負う事業を対象としているため、標準化したテンプレートモデルをそのまま使えることがむしろ少ないという現実がある。
また、そのテンプレートモデルの設計編集を個々の設計者独自の発想で行ってしまうと、再度社内に自己流で派生させた図面が脈々とできていき、現状の問題解決にはならなくなってしまう。
2. 標準図(テンプレート)を設計メンバーで活用していくためのルールの整備
テンプレートモデルを使って設計する手順として、各設計者はこれから自分が設計する組み立て図に近い仕様のテンプレートモデルを、サーバーから選んでダウンロードする。
そして、装置内で搬送するワークの可動域や形状、サイズなどに応じて、組み立て図の中の構成部品を伸ばす・縮める、締結部品を増やす・減らすなど変更主体で設計を行う。
その際前述したように、その変更方法を個々の設計者独自の考えで行ってしまうと、それがまた自己流図面になってしまう。
そこで設計改善研究会では、その編集のやり方について規格としてルールを整備した。
その中でも特に、自動搬送装置の架台となる溶接構造のフレーム部品などは、個々の設計者ごとに全長の決め方や、強度確保のための締結やリブの配置方法などに個人差が生まれやすいため、サイズを一定区分した数種類に限定し、その限定した種類の中で、コスト・強度面でベストと考えられる形に厳選し規格化している。
また取り扱い説明書とも言えるこの規格書には、後工程である購買や組み立て部門で過去に生じたトラブルも網羅的にまとめてあり、ルール通りの変更設計をしないことで、どのような問題が発生するかも表記してある。
個人の独創による設計を許容すると、干渉ミスや機能障害などトラブル発生リスクが高まってしまうため、こうした点からも設計対象となる装置を、一定の範囲を持って規格化することは必要である。
3. システム原価を適正化していくための業務フローの構築
一方、個々の設計者による自己流図面は、製作する装置システムの製造原価のバラツキも発生させてしまう。
一般的に見積もり段階で誰が設計担当になるかは決まっていないうえ、本来設計者によって装置システムの原価に違いが出ることも望ましくない。
そこで設計改善研究会の考えた新たな業務フローとして、引き合いが入った後、見積もりをする担当者は、サーバーに保管された組み立て図のテンプレートをベースに見積もりを行う。なおサーバー内のテンプレートモデルは、事前に最適な製造原価を算定しておく。
設計を行う担当者は、上司から見積もりで使われたテンプレートモデルを指定されたうえで、設計を行うよう指示を受ける。
その担当者は、テンプレートモデルに付属された規格書に基づき、決められたルールのうえで編集設計を行う。これにより今後は、適正原価が担保された中で設計を行うことが可能になる。
なお、テンプレートモデルを使用しない全く新規の設計を行うこともある。その場合は、その新たな設計図面が一定回数、再利用されればその段階で、標準化会議という公式権限を与えられた会議体によって、新たなテンプレートモデルとしてサーバー保管するかどうかを取り決めるというルールにした。
標準図の3次元化に向けて
設計改善研究会のここまでの取り組みとして、2次元設計においては一定の標準化に向けた制度が整ってきた。次のステップとして、オーダーメイドで受託する装置システム事業での設計を完全3次元化する取り組みに着手する。
今回整備したテンプレートを活用する標準化の仕組みは、3次元CADでの設計と非常に相性が良いと言える。
ただし、次のような同社ならではの課題があり、今後はその解決を図るための取り組みが必要になる。
- 3次元のCADモデルは個人単位ではなく、他の設計者も含めた複数メンバー相互で扱う。他人が理解しづらい拘束定義などが入っていると編集が困難になる。
- 設計者はほとんど全員2次元設計から移行する者であり、設計手順が大きく変化すると工数に大きく影響が出る。
しかしながら同社の設計改善研究会は、ここまで2年以上きちんと休むことなく継続して活動してきており、このような3次元化に向けた大きな障害も無事に解決できるはずである。
長い歴史の中で培ってきた「資産」とも言える設計職人集団のノウハウを標準化し、更なる付加価値として高めていこうとする同社に筆者は大きな期待をしている。
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金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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