株式会社 新美利一鉄工所のコンサルティング事例③(型技術2021年1月号掲載)

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株式会社 新美利一鉄工所のコンサルティング事例③(型技術2021年1月号掲載)

本号で紹介する加工メーカーは、これで3回目の登場となる溶接製缶メーカーの(株)新美利一鉄工所(愛知県岡崎市 TEL0564-46-2955)である。

同社の特徴は、極めて短納期の依頼や図面で表しきれない抽象的な製品の依頼であっても、問題なく対応ができる点などにある。また200社を超える多くの顧客を持ち、このコロナ渦においても多少の影響はないわけではないが、多方面の分野の顧客を持つことで、事業リスクの対応ができている点はさすがである。

このような日本全体の経済が危ぶまれる中、同社は数年先を見据えた社員の教育活動をますます盛んに行っており、筆者も講師役としてそのサポートをさせていただいている。今回はその同社の教育活動について紹介させていただく。

社員の部門・立場に応じた教育活動

具体的に同社では、社員の部門・立場に応じた教育活動を行っており、今現在も定期的に次の3つの社内研修を行っている。

  1. 事務所で受注と調達業務を行う女性社員向け(5名)の研修
  2. 営業と生産管理業務に兼任異動となった中堅社員向けの研修
  3. 入社3年目となる若手社員向けの研修

5名の女性事務員向けの研修内容

①の5名の女性社員向けの研修は、まさに同社ならではといった特徴がある。
製造業における女性事務員が受ける研修としては主に、WordやEXCELなどのパソコンの使い方や、マナー・コミュニケーションスキルなどが一般的だ。

しかし同社の事務員の場合、月間2千枚を超える枚数の図面をとり扱っており、引き合い時から受注に至るまでの手続き、その後の材料手配や自社の製造現場及び外注メーカーの納期管理なども行っている。そのため、図面を読むスキルに加え、金属材料や熱処理、表面処理などの知識なども必要になる。

これまでは5名の事務員に対し、図面の正しい読み方や材料知識などについて社内教育を行ったことがなく、各自仕事をしながら自力で覚えてきた。そのため知識やスキルについては偏りや個人差ができてしまうなどの問題があった。

そこで昨年同社の新美剛一社長から依頼を受け、5名の事務員向けとして次の内容で研修を行っている。

写真1 女性事務員の教育活動の様子
  1. 製図の読み方
  2. 金属材料の種類と特徴(特に溶接製缶の分野でよく使われるもの)
  3. 溶接製缶の前加工・後加工の種類(レーザー切断や切削加工、研削加工など)
  4. 熱処理や表面処理などの知識
  5. 立体図形を描く練習
  6. 3角法に基づく3面図を描く練習
  7. 寸法測定に関わる知識(測定工具と測定方法について)
  8. 接客マナーや電話応対について

特に、5.や6.の図を描く練習については力を入れており、事務員が現場担当者に仕事を手配する際、アイソメ図を描いて伝えることもあり、新美広治会長からも、ぜひ身に付けて欲しいスキルだと依頼を受けている。

また同社の方針として、女性事務員は単に事務仕事を行うだけでなく、マルチに活躍して欲しいとの期待をされており、完成品の検査や出荷納品などの実務も担当している。
本研修においては、そういった実務に必要となる知識や実践も取り入れている。

営業・生産管理業務に兼任異動となった中堅社員向けの研修内容

②の営業と生産管理業務に兼任異動となった中堅社員向けの研修とは、製造部門の中根勇一氏に向けて行っている研修である。

中根勇一氏は今年の主任昇格に伴い、これまでの製造現場の仕事に加え、見積もり業務や受注した仕事の社内・協力会社への手配、それらの納期管理など、事務所で行う業務も兼任することになった。

そこで必要になる知識や、主任として部下を扱うため必要となる知識を身に付けるため、次のような内容の研修を行っている。

(ア) 管理職としての心構え・部下の扱い方について
(イ) 製造原価やチャージ計算に関わる知識
(ウ) 生産管理全般の知識
(エ) 5Sの基礎と実践方法
(オ) 見積もり作業に関わる知識

特に、(イ)の製造原価やチャージ計算に関わる知識や、(オ) の見積もり作業に関わる知識は、新美剛一社長が今後中根勇一氏に最もやってもらいたい業務として期待を寄せている、引き合いを受けた案件の見積もりから受注までの業務を行ううえで必要になる知識である。

同社では事業の特徴でもある、極めて短納期の案件や図面指示の無い案件などがあり、一般的な購入費や工賃の積み上げで行う見積もり方法が適しない特殊なケースがある。

そうした案件に対応するため、この業界の取引でよく使われている駆け引きなども本研修では中根勇一氏に学習してもらっている。

入社3年目となる若手社員向けの研修

③の入社3年目となる若手社員向けの研修は、新美剛一社長の依頼から、特に対人コミュニケーションスキルを中心に行っている。

本研修は新卒入社から3年目となる中根聖氏向けに行っており、これまでの社会人基礎研修の内容からスタートし、今年はさらにレベルアップしたコミュニケーションスキルの内容に加え、ある程度会社に慣れた今の段階で、仕事のキャリアとリンクさせた自分の人生設計を考える取り組みを行ってもらっている。

今年は新型コロナウィルスの影響で取り組むことができなかったが、職人揃いの同社でありながら、これまで取り組んでこなかった技能検定についても、若手の中根聖氏から順に受験していく計画である。

同社の今後の戦略

同社は今年のものづくり補助金にて特別枠で採択されており、溶接用ロボットの導入を進めている。

溶接用ロボットについては、これまでも多くの製造メーカーで使われているが、同社のような小ロットや個別の単品生産で使われる事例は少ないと思われる。

小ロット品や個別の単品部品での溶接作業であれば、溶接用ロボットにおけるティーチング作業を行うよりも、手作業の方が早くとりかかることができるためだ。

その点について同社では、コンピューター機器の扱いに長けた工場長の日下石智彦氏と若手の中根聖氏の2名により、フレキシブルで汎用性の高い治具を考案すること、専用ソフトによりティーチング作業を徹底して外段取り化することで、小ロット品や単品部品での効率的な溶接用ロボットの活用を実現させる計画である。

また、溶接用ロボットを導入することのもう一つの狙いとして、これまで同社の事業ではあまり扱ってこなかった、中ロット品を製造する新たな仕事を受注していけるよう、販路を拡大していく計画もある。

この点について、これまで同社では1人の職人が最初から最後まで一つの製品を担当するというスタイルで仕事を行ってきたが、今後もこうした同社の特色は継承しつつ、溶接用ロボットのような自動化設備を導入していくことで、一つの工程を担当するスペシャリストになりたいという若者についても、同社は受け入れる居場所を作ることができる。

新型コロナウィルスについての終息がまだ見えないなか、強みとしてきた製造方法のみならず、採用面からも企業を変革していこうとする同社に、筆者は大きな期待をしている。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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