「安く作るか」と「量を作るか」で、現場に違いは出るか?
以前このホームページのコラムで、ボトルネック工程の負荷を分散するためには、速さや工数にはこだわらなくても構わないと書いたことがあります。

このときの内容をざっくりお話ししますと、1型あたりの原価に固執すると、空いているけどスピードが遅い機械を使う理由が排除されてしまうというものです。1型あたりの原価をできる限り安くしようとすると、社内の最速で加工できる機械だけで仕事をすることになってしまい、量をさばけなくなるという副作用を生むというお話しでした。
では、「量をたくさん作る(加工する)」を実践している加工現場にとって「安く作る」は、もう考えなくてもよいのでしょうか。
今回は、いくつかの企業での事例を元に、そこに触れていきたいと思います。
まずは、先日とあるプレスメーカーの加工現場で議論になったお話しです。
「量を作る」と「安く作る」が両立できていない現場の例
その現場ではマシニングセンターの加工で、多数のワークを一度に乗せる無人加工がかなり高度に実践できており、月あたり機械一台あたりの平均加工枚数は約200枚と高い生産性を実現していました。
そこで、次に取り組んでいく課題は何かとの相談を受けましたので、今使っているエンドミルの加工条件などを見させてもらったところ、無人運転に固執するあまり、逆に安全運転になる傾向が強く、使っている加工条件は全体的に遅めになっていました。
ある意味これは当然のことだと言えます。夜間など人が近くにいない状況で、安全に朝まで加工を完了できるようにしようとすれば、S値・F値のみならず、エンドミルの切り込み深さや径方向の切り込み量(ap・ae)も、遠慮がちな条件になりがちです(攻めより守りの条件を採用する)。
また、こちらの加工現場では、昼間も多数個セットの段取りをすることで、昼休憩に人が現場にいない時間も機械に仕事をさせるという取り組みを積極的に行っていたので、昼夜問わずその加工条件を使っていたということになります。
なので私からは、人が近くにいる昼間においては、逆に多数個セットはやめて、1個ずつ段取りをすることで、その分逆にS値・F値を上げ、攻める加工条件を使ってみてはどうかと提案しました。もちろんエンドミルの切り込み量も増やすことも含めです。
この提案は、加工現場の部長・課長クラスの方々にも納得が得られ、取り組み後の出来高も検証してもらったうえで、採用していこうとなったのですが、現場の機械オペレーターからは、すでに充分生産性をあげていることを理由に、反対の声があがってしまいました。
そこで私の方に、現場の皆さんを説得するよう頼まれたのですが、機械オペレーターの方々にお伝えしたことは何かと言いますと、それが今回のテーマである「量を作るだけではいけない安く作る発想も必要」です。
もちろんこちらの会社が、充分に「量を作る」ことができているからこそ、次のステップとして「安く作る」に進めるということです。
私はどちらが優先かと聞かれたら、絶対に「量を作る」が優先と答えます。そのあたりはこの後、事例と共にお話しします。
話を戻しますね。この事例の現場の機械オペレーターの方々には、次のようにお話ししました。
「夜間でやっていたものを昼間にもってきた結果、仮に1日に仕掛ける枚数に変化が無かったとしても、やる意義はあります。なぜだかわかりますか?
理由は、昼間の加工条件を上げることで、加工時間を短縮することができれば、そのワークの加工に要した工数が少なくなります。そこで皆さんが真面目に付けてくださっている日報に書き込む工数が減るということですよね。
上司の方々は、それらワークの工数を金型ごとに集計しており、その集計結果を社長や営業に報告しています。ということは、金型ごとのその集計結果が1円でも安くなるということであり、まず営業さんが喜んでくれます。
営業の立場からすれば、安い金額で金型が作れるということは、もう少し価格を下げた見積もりを提示しても、仕事が取れるんだなと判断します。それだけ会社の価格競争力がUPするということです。
・・・という意義からすれば、今あなた方が次に取り組むべきことは、1枚あたりのラップタイムを上げることではないでしょうか。」
これを話したところ、納得してくれまして、昼間の加工条件UP、ひいてはそれにより余剰時間ができれば、さらに差し立て計画を前倒しして加工して、日あたり枚数を増やすという取り組みを実施してくれることになりました。
これはまさに「量を作る」ができた結果、次の「安く作る」にステップUPしていった事例です。
ですが、実はこの事例はかなり上級な取り組みができている例で、実際は「安く作る」に固執し、機械稼働に空きを作ることになってしまい、「量を作る」が実践できていない現場が多いです。
例えば、過去にこのような事例がありました。
「量を作る」ができていなかった現場の例
とある成形メーカーの金型内製部門では、管理部門から社内で作る金型原価が高いため、外注の金型メーカーに仕事を出さざるを得ない、社内の金型原価を下げるよう何とかして欲しいと強く言われている状況でした。
そのため、こちらの金型内製部門では、複数台あるマシニングセンターのうち、最新の機械でしか加工することができず、旧式の機械で加工はできますがスピードが遅く、それで加工すると最新機械よりも工数が増えるため、使うことができないという状況でした。
ですが一般的に、外注の金型メーカーの売値チャージと、社内の原価チャージを比較すると、社内の原価チャージの方が安いため、特別社内の方が遅いというわけでなければ、内製した方が会社は儲かります。
また外注に出しても、社内で加工しても、社内の金型内製部門の人件費は変わらないため、やはり止まっている機械の空きがあるなら、社内で加工した方がお得です。
まさにこの例は、「安く作る」に固執したばかりに「量を作る」が疎かになってしまったケースです。
もう一つこのような事例もあります。
ある売り型メーカーでは、既存顧客からの金型単価が年々下がっており、見積もりを提出すると、顧客が想定している予算とに開きがあり、失注することが多くなっている状況でした。
そこで、こちらの会社の経営者と営業担当者から製造現場に出た指示は、「1分1秒でも加工を早くして、安く金型を作りなさい」でした。
私の見立てでは、こちらの会社では微細な形状を取り扱っていて、段取りなどは工夫すると、多少の工数削減はできる余地はあるかもしれませんが、マシニングセンターの切削加工や、放電加工機による加工時間は、意匠面などの品質に影響が出るため、加工時間を削るのは難しいのではと思っていました。
また、多くのマシニングセンターなどがある中で、機械の稼働状況としては止まっている機械もありましたので、社員総出でその停止時間を何とか稼働させる、つまり「量を作る」方に舵を切る方が会社の収益は上がると見ていました。
つまり多少安く金型を受注しても、その分多く金型を受注するという方策です。また「安く作る」もあきらめるというわけではなく、最初に紹介したプレスメーカーの取り組みのように、まず社員総出の多能工化などで「量を作る」体制(機械をとにかく稼働させる)を構築したのち、さらに個別のワークの工数削減に取り組む(「安く作る」取り組み)、という順番で収益低下を挽回していくのが良いのではないかと思いました。
まとめ
紹介した事例のように、「安く作る」はもちろん必要なのですが、それだけに固執する、もしくはバランスが強くそちら寄りなってしまうと、現場の機械に空きができやすくなってしまうという副作用もあると思います。
また、最初に紹介したプレスメーカーの加工現場のように、「量を作る」だけに固執してしまっても、早く加工する、何枚のワークをいくらで作るか、などの視点が抜けてしまうかもしれません。
やはり両立が望ましいということになるのですが、どちらが優先かと言えば、やはり儲けるためには「量を作る」が優先で、その後「安く作る」への取り組みになると思います。
ただし繰り返しになりますが、最終的にはどちらも必要な取り組みです。
御社はいかがでしょうか。参考になれば幸いです。
金型・部品加工業専門コンサルティングからのご案内
ホームページの技術コラム本の第9巻が発売されました!

設計部署や製造現場、管理部署にぜひ一冊。
経営者や部長などマネージャー職の方々から、悩める現場リーダーへのプレゼントにも最適です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【動画セミナーDL販売】現場リーダーのための「稼ぐ力」養成講座
大手セミナー会社向けに制作したコンテンツを、安価に一般販売いたします。
金型・機械加工など単品・小ロット品加工の「現場リーダー」向けの動画セミナーです。

- 教材構成:約300ページ分のスライド資料をもとに制作された解説動画
- 学習時間:動画+演習で約6時間(367分)
- 目的:現場リーダーが 数字に強くなり、成果を見える化できる力を養うこと
- 特徴:目標管理・不具合対策を中心に実務直結のスキルを習得
- 形式:動画(mp4)+PDF資料
- 割引:通常価格50,000円 → セット購入で50%OFF:25,000円(税込)
【改善・管理の上級編】セミナー動画が発売中です【お得なDL版あります】

過去に大手セミナー会場で、代表コンサルタントが講師として登壇した内容をZOOMで再収録しました。
内容は、加工や管理における上級コースとなります(基礎知識はすでに持っておられる方向けになります)
動画セミナーですので、いつでも何人でも受講でき、長時間一気に受講する必要もありません。隙間時間を有効に使って受講できます。
お買い求めしやすいダウンロード版もございます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【書籍販売中です】経営が厳しい金型メーカーのための本
このホームページに掲載している多くの技術・管理コラムから、経営が厳しい金型メーカーのために、大きな投資に頼らず、意識面や仕事の取り組み方などから改善改革していける方策に関するコラムを集めた本をつくりました。
こちらの書籍を販売しております。内容は、366ページの大ボリュームとなっております。

ぜひ社員の皆さまで読んでいただければと思います。また、金型メーカーを支援される金融機関や公的機関、会計事務所やコンサル会社でお勤めの方々にも、読んでいただければ幸いです。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
YouTubeを使った上級セミナーを配信中です

金型メーカー・部品加工メーカーにおける、個別テーマの上級セミナーを配信しております。
YouTubeによる動画配信ですので、ネット環境があればいつでもどこでも視聴できます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための管理職育成マニュアル」発売中です

当サイトの管理職育成ルームに掲載しているコラムを集めて編集したものになります。
金型メーカーや機械加工メーカーで、新たに管理職になられる方や、すでに管理職としてお仕事をされている方向けに、ストーリー形式で、心構えから具体的に取り組む業務内容まで、幅広くまとめております。
くわしくは、こちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・部品加工メーカーにおける処世術」が発売中です
こちらの書籍は、金型メーカーや部品加工メーカーにおいて、国内全体で賃上げの機運が高まる中、勤める会社に貢献しながらも、ご自身の付加価値・市場価値を高めていこうとされる方々の一助になるような内容をお届けすることを目的としています。

「処世術」をテーマにした一般書籍はたくさんありますが、主にホワイトカラー向けのものが多く、金型メーカーや部品加工メーカーのお仕事ですぐに使えるものが少ないと思っています。
一方この本では、金型メーカーや部品加工メーカーの現場「あるある」を題材にしており、そこでお仕事をされる方々に身近なわかりやすい内容にしております。
簡単なワークも掲載していますので、社内研修にもお使いいただけます。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための自己診断ハンドブック」が発売されました!

私がコンサルティングの初回訪問時や、無料診断サービスにおいて、訪問先企業の製造現場で確認する項目を解析付きで紹介しています。
金型メーカーや部品加工メーカーに皆さまに、自社をセルフチェック(自己診断)するために使っていただければと思っております。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
2パターンの技術セミナーレジュメを販売いたします

日刊工業新聞社さん主催で行われた、機械加工メーカー向け、金型メーカー向け、それぞれの技術セミナーで配布されたレジュメを販売いたします。どうしても遠方で参加できないといった方や会社さまより、レジュメだけでも使いたいとリクエストがあったためです。
当事務所のホームページに掲載されているコラムの内容がベースとなっておりますが、それとの違いとしては、具体的計算と事例ワークなどを盛り込み、ホームページよりも手厚く解説しております。
本来レジュメと言いますと、図やイラストがほとんどで、言葉による文章が入っていないイメージがありますが、本レジュメはそうではなく、復習がしやすいよう、多くが文章で構成されており、1人で読み進めることができます。
くわしくはこちらのページからどうぞ
ミドルマネジメント層向け人材育成セミナーのレジュメを販売いたします

ミドルマネジメントの人材育成のテーマで、講演をさせていただいた際に作成したレジュメ(当日映写したパワーポイントファイルと同じものです)を販売いたします。
日程や生産管理、品質管理だけが幹部・管理職の仕事ではありません。儲けるためのマネジメントが必要です。
そういった視点や意識を持ってもらうためのきっかけとしてオススメの一冊です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
4コマ漫画ギャラリーを開設しました
コラムページにプロローグとして添付している4コマ漫画を集めたページを開設しました。

こちらをクリックすると入れます

コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
