汎用機械教育は必要か? ——NC全盛時代に再考する「教える順番」
金型メーカーや部品加工業の経営者、あるいは製造部長の方々と意見交換をする中で、非常によく受ける相談があります。
「新人を採用した際、やはり最初は汎用機(手動の旋盤やフライス盤)で基礎を教えるべきでしょうか?」
私自身、かつて汎用フライスや汎用旋盤、そしてラジアルボール盤を操作していた経験があります。特にラジアルや旋盤のハンドル越しに伝わってくる「切削抵抗」の感覚は、今でも指先に残っています。
あの「金属素材を削るときの手の重み」を肌で知ったことが、今の設計や加工条件を考える原点になっているのは間違いありません。
ただ、現代の加工現場の状況を考えると、「汎用機教育は、後回しでもいいのではないか」というのが私の率直な考えです。
なぜ、伝統的な「まずは汎用機から」という順序をあえて変えてもいいと思うのか。そこには、現代の現場に即した合理的な理由があります。
何よりも「安全」を最優先に考える
私はこの業界の専門コンサルタントとして、また中小企業診断士、そして社労士としての視点からも、最も重視したいのは「安全」です。
かつての現場では「怪我をして覚える」「怪我をしてようやく一人前」といった、今では到底容認されない言葉もありました。
しかし現代において、新人に剥き出しの回転体による恐怖心を与え、万が一にも怪我をさせてしまうリスクは、本人の将来を奪うだけでなく、離職の引き金にもなりかねません。
その点、カバーで覆われたNC機は、物理的な危険から若手を守る「安全装置」そのものです。
まずは安全が担保された環境で、「どう段取りし、どうプログラムを組めば、狙った通りの成果が出るか」というプロセスに集中させる。これが、今の時代の労働安全管理に即した自然な流れではないでしょうか。
一方で、工業高校や職業訓練校などの専門家が管理する環境での教育は、技術者の将来や伸びしろを考慮しても、基礎体力をつける上で非常に有効だと感じています。教育のプロが付き添い、安全が徹底された場での経験は、将来エキスパートを目指す上での大切な「土台」になるためです。
「標準機能」と「エキスパートモード」の切り分け
教育の優先順位を考える際、身近なツールに例えるとイメージしやすくなります。
例えば、Excel(エクセル)です。
新入社員にまず教えるのは、セルの入力や基本関数といった「標準機能」ですよね。いきなり「VBA(マクロ)でコードを書け」とは言わないはずです。
まずは標準機能で業務を回せるようになり、その上で「もっと効率化したい」と向上心を持った人間が、VBAという「エキスパートモード」に踏み込みます。
CAD/CAMも同様です。まずは標準的なコマンドでモデルが作れれば実務は回ります。より複雑な形状や最短のパスを追求したい時に、初めて高度な機能を使いこなす段階に移ります。
マシニングセンターなどのNC教育も、これと同じ考え方だと思うわけです。 まずは安全なNC機で、早期に「稼げる戦力」を育てる。これが会社にとっても本人にとっても先決です。
汎用機は「答え合わせ」のツールとして活用する
では、汎用機はもう不要なのかといえば、決してそうではありません。
NC機でのオペレーションを十分に習得したのち、「このワーク、もっと条件を上げられないか?」「なぜこの工具はすぐダメになるのか?」といった疑問が自発的に芽生えた有望な人材こそ、汎用機の門戸を開放するのです。
このタイミングで初めてハンドルを握ったときに、かつて私が感じた「切削抵抗」や「素材の振動」が、彼らの中でNCの数値データと結びつき、技術が『腑に落ちる』瞬間がやってくると思います。
この「数値と感覚の答え合わせ」こそが、技術を深掘りするための強力なブースターになります。
これからの時代の最適解
以前のコラムでも触れましたが、汎用機は独立した部署として固めるのではなく、NC機の付近に置いて「補助ツール」として活用するのが理想的だと考えています。
最初は安全なNC機で、早期に「稼げる戦力」を育てる。 その中から、技術の深淵に挑もうとする者を選抜し、汎用機という「エキスパートモード」を開放する。
この「逆転の教育」こそが、人手不足時代を生き抜く金型・部品加工メーカーにとっての、一つの現実的な解ではないでしょうか。
皆様の現場での教育指針として、多少なり参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
