当事務所がオススメする「稼働率向上」のための方策7選
今回のテーマは金型メーカーや部品加工メーカーにおける「稼働率向上」になります。
マシニングセンターや放電加工機など、機械加工の稼働率とは、機械が実際に加工を行っている時間の割合のことで、これを高めることで生産性や利益率を向上させることができます。
しかし、どのようにして稼働率を上げるかは、皆さんご存じのとおり一筋縄ではいきません。そこで今回は、稼働率向上に向けたいくつかの方策をご紹介します。
前倒し生産
前倒し生産とは、まだ先の納期の仕事であっても、できるだけ早く加工を開始することです。
これにより、納期に迫ったときに慌てなくて済みますし、急なトラブルや追加注文にも対応できます。 また、前倒し生産をすることで、機械の空き時間を減らすことができ、直近の機械稼働率向上に寄与します。
では、後々の日程の仕事を先食いすることで、後の機械日程には空きができてしまうのでしょうか。
そうではなく、金型メーカーや単品部品加工メーカーにおける営業活動においては、後の機械日程に空きを作ることで、そこに次の仕事を入れやすくなります。
逆に、前倒し生産をしないと、後から入ってきた別の仕事が重なってしまうことで、その新しい仕事をお断りするか(失注)、オーバーフロー外注になり、利益率の悪化を招いてしまうかもしれません。
少し話が逸れましたが、前倒し生産は稼働率向上に寄与するだけでなく、会社収益にもメリットがあります。
なおこの点については、下記の記事で紹介しておりますので、もしよろしければ、ご覧ください。
差立て計画の最適化
差立て計画とは、下図のような、機械や人に対して、時間単位で仕事のスケジュールを割り振る計画のことです。
この計画を作るときには、下図のような、部品ごとにどの工程をいつまでに終わらせるかという中日程計画が必要です。
差立て計画が最適化されていれば、各工程で機械の待ち時間や空き時間を最小限に抑えることができます。
差立て計画を最適化するためには、実際の作業時間の見積もりと、作業者の能力をある程度正確に反映させることがポイントになります。
なお、この差立て計画については、前述したように前倒し生産が理想ではあるものの、状況によって前詰めと後ろ詰めの方針を使い分ける必要があります。
なおこの点については、下記のリンクで紹介しておりますので、もしよろしければ、ご覧いただければと思います。
多能工化だけでなくマルチスキルを導入する
多能工化とは、一人の作業者が複数の機械や工程を担当することです。
多能工化は柔軟性や効率性に寄与しますが、一方でジョブローテーションのタイミングがなかなか来ないなど、多くの金型メーカーや部品加工メーカーにおいて、着手するまでに一定のハードルの高さが課題になっています。
そこで、当事務所では多能工化ではなくマルチスキルの導入の方をオススメしています。
マルチスキルとは、作業者が自分が担当する工程の仕事を行うにあたり、他工程で用いるスキルまで用いることで、仕事の質や幅を広げることを言います。なお、これは一般的な生産管理用語ではなく、当事務所がオリジナルで使っている概念です。
例えば、CAMと機械オペレーターが分業している場合であっても、機械オペレーターがCAMを操作してNCデータを作成・編集したり、機械オペレーターが無人加工で手すきになった際、機械の段取り作業場で後工程の組み立て作業まで行ったりすることなどが該当します。
多能工化との違いは、実際に他工程に入って仕事をするわけではないので、他工程の負荷や定員数などに配慮する必要がなく、着手にあたって多能工化ほどハードルが高くない点です。
マルチスキルの導入により、機械加工にあたっては、CAM工程からのNCデータ待ちや、ハンドワークや組み立て作業などの後工程のボトルネックを解消するなど、現場の稼働率向上に寄与することができます。
こちらについても、下記のリンクで紹介しておりますので、もしよろしければ、ご覧いただければと思います。
最低限行うべき機械の状態整備
機械加工の稼働率向上において、前提となることは、機械の故障やトラブルを防ぐことです。
故障やトラブルが発生すれば、稼働率は大幅に低下しますし、品質や安全性にも影響します。
そこで、マシニングセンターの作業において、当事務所が推奨する最低限行っておくべき精度確認の項目は、下記のリンクで紹介しておりますので、もしよろしければ、ご覧いただければと思います。
自動化
機械加工の自動化とは、人の手を介さずに機械が自動的に作業を行うことです。言うまでもないことですが、金型メーカーや部品加工メーカーにおける自動化は、有人作業時間の短縮や品質の安定化などのメリットがあります。
自動化の方法は様々ですが、当事務所が着眼しているのは、マシニング加工における、機上計測と自動追い込みです。
機上計測とは、機械にセットされた状態、つまり機械から降ろす前に、マイクロメータやタッチプローブなどで、加工後の寸法や形状を測定することです。
ワークがまだクランプされたままの状態であれば、仮に削り足らない箇所があっても、追加工することが可能ですが、一旦降ろしてしまえば、再段取りの時間ロスはありますし、原点位置の再現も容易ではありません。
したがって、一発で狙い寸法が出ているにこしたことはありませんが、不要な乗せなおしによる稼働率悪化を避けるためには、的確な機上計測は重要になります。
この作業を自動化することで稼働率向上に寄与します。
また、自動追い込みとは、例えばポケット加工した後の機上計測の結果に基づいて、まだ取れ残りがあった場合に、機械に自動で寸法追い込みをさせる仕掛けのことです。
こちらも人の手を介さずに無人で行うことが出来れば、稼働率向上に寄与します。
なお、これらの仕掛けについては、CAMのオプション機能を使ったり、専用ソフトを用いる方法があります。
これらを行うことで、作業者の手間や有人作業の待ち時間などを減らし、稼働率向上に寄与させることができます。
あるべき仕事の教え方(覚え方)によるスキルアップ
機械加工の稼働率を上げるためには、作業者のスキルアップを目指すことも重要です。
しかし、スキルアップのためには、ただ経験を積むだけでは不十分です。重要なのは、あるべき仕事の教え方(覚え方)です。
あるべき仕事の教え方(覚え方)とは、ルーチンワーク的な作業と応用力を要する作業とをきちんと切り分け、それぞれに適した指導(習得)方法で仕事を覚えることです。
標準的に決まったルーティン作業を覚える手順については、次のような順序で仕事を教えます(覚えます)。例えば、マシニングセンターや放電加工機の段取り作業などの一部が考えられます。
- 手順を覚える
- あるべき状態を知る
- 急所を押える
一方、ある程度応用力を要し、ジャッジ(判断)を要する作業については次のような順序で仕事を教えます(覚えます)。
- 選択肢を知る
- 判断基準(優先度)を覚える
このように、状況に適した教育方法を使い分けることで、適切なスキルアップを行うことができ、作業者は高い品質と効率で仕事ができるようになり、ひいては稼働率向上に寄与するはずです。
この点についての詳細は、下記のリンクで紹介しておりますので、もしよろしければ、ご覧いただければと思います。
内段取りの外段取り化
内段取りとは、加工中に行う段取りのことです。例えば、ツールや治具の交換、プログラムの修正などがこれにあたります。
外段取りとは、加工前や加工後に行う段取りのことです。例えば、ツールや治具の準備、プログラムの読み込みなどがこれにあたります。
この違いは、機械が稼働している最中に行うか、停止中に行うかの違いです。内段取りは稼働率を低下させますが、外段取りは稼働率に影響しません。
そこで、内段取りを外段取り化することで、稼働率を上げることができます。
例えば、ツールや治具の準備や交換、プログラムの読み込みや修正などは、可能な限り外段取りで行うべきです。
まとめ
以上、当事務所が推奨する稼働率向上の方法7つをご紹介しました。これらの方法は、当事務所がクライアント企業の現場でオススメしているものです。
もちろん、これらの方法は一朝一夕にできるものではありません。しかし、稼働率向上は金型メーカーや部品加工メーカーにとって重要な課題であり、取り組む必要があります。
また、稼働率向上と出来高向上の違いについても、しっかりと理解しておくことが重要です。
当たり前のことですが、稼働率向上とは、機械加工の空き時間を減らすことであり、出来高向上とは、生産量を増やすことです。
このそれぞれを目標とする取り組みは、似ているようで異なる点に注意です。
例えば、今回挙げた稼働率向上に向けた取り組みの中には、スキルアップへの取り組みはありましたが、一方、加工条件を見直して加工のスピードを上げるなど生産性についての取り組みは入っていません。
極端に言えば、加工スピードは変わらないままでも、機械スケジュールに空きを作らないことで、稼働率向上を実現することはできます。
そういった意味での出来高アップを図ることはできますが、これはあくまでも稼働率を上げたことによる成果です。
したがって、もう少し目標とする範囲を広げ、「出来高向上」とした場合には、稼働率向上以外にも、加工スピードを上げる、CAMのテンプレートを整備し作業効率を上げる、設計の自動化を整備して作業効率を上げるなどの取り組みが考えられますが、気を付けたいのは、加工の速度や作業効率が上がると、目の前の仕事が早く終わるために、直近では稼働率そのものはむしろ落ちる可能性があるということです。
したがって、当事務所が推奨する一番の目標に、稼働率を持ってこないのはそのためです。あくまで目的は出来高の方であって、稼働率ではないはずです。
稼働率向上は出来高向上の一手段であって、本来の目的ではありません。
ですから、以前とある企業の失敗例のように、稼働率を上げるためにあえて現場は加工スピードを落とし、機械の停止時間を減らすよう、現場がこっそり行っていた不正などはあってはならないものです。
ですからやはり、稼働率向上と出来高向上は、分けて考えるべきです。
今回たまたま、このテーマで、ある企業から質問があったため、取り上げてみましたが、この点についてはしっかり現場に浸透させておくべきです。
御社の現場はいかがでしょうか。参考になれば幸いです。
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